光の気配

 

『なんや。今年は家におるんか』
「ああ。つうか先週行ってきたんだ。年末混むしな」

 令和元年十二月三十一日。
 季節外れの暑さとなった大晦日。

 新一はクイックルワイパー片手に、ワイヤレスのイヤホンを装着しつつため息を付く。
 通話の相手は平次。大阪の実家に帰省中だ。

『せやったら何で言うてくれへんねん』
「言ったら来るだろお前」
『当たり前や
「正月くらい家にいやがれ」

 事件続きで今月もろくに掃除をしていなかった。
 かなりの埃が、手元のクイックルに纏わり付いてしまう。

 少し、咳き込む。

『おえ、大丈夫か、風邪引いたんか』
「掃除中。だいぶ埃つもっちまってるからな」
『ならマスクしてやらんと』
「お前が電話してきたから外してんだろうが︙︙それに暑いし、ホントにどうなってやがる」

 ブルートゥースのイヤホンは便利だ。
 手ぶらで会話出来るから、他の作業も出来る。

 しかしこの暑さ。
 明日が正月とは本当に信じられない程で、新一は下がってきた袖をまくり上げた。

『こっちも今日は暑くてかなんわ。夜は寒なる言うてたし、気いつけや』
「お前こそ」
『四日には戻るし。そしたら初詣やな』
「なに言ってんだ家族で行ってこい。俺は紅白終わったら、蘭たちと神宮だ」
『何やと
「︙︙ゆっくりしてこい。過ごせる時は、一緒にいたほうがいい」

 目を伏せる。
 声が変わったのを、平次は感じ取った。

 だから新一は自分から家族の元へ向かった。
 会える時に会おうと、すぐに行動に移した。

 まあ、年末年始の混雑が嫌なのと、飛行機代が高値になるのもひとつの原因だったけど。
 とにかく今年は、考えさせられる天災が多すぎた。

 そして暫くの無言。
 平次は、新一が今どんな表情をしているかが知りたくて仕方なかった。

 でも解ってる。
 きっと首まで赤いはず。

『おい工藤』
「何だ」
『︙︙俺は諦めんで。お前も、未来も』

 過ぎた時間は戻らない。
 選ばなかった道は、もう振り返らない。

 未来はどうなるか解らない。
 自分の気持ちも明日同じとは限らない。

 でも。
 この先、どこかで繋がると信じてる。

『聞こえとるんか』
「︙︙本当にお前は」
『へ
「いや。そろそろ切るぞ、掃除が終わらねえ」
『え、ちょお待て』

 出逢ったその瞬間から、俺を捉えて離さない。

 ︙︙それにイヤホンはヤバイ。
 あいつの声が、ダイレクトに響きやがる。

 そうして新一は電話の電源を切る。
 更に大きく深呼吸。

 令和最初の大晦日。
 季節外れの暑さとなった、十二月三十一日。

 それに負けないくらい、熱い気配のあいつの光。

 

[了]

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