スーパームーン

 

 何故だろう。
 小さな頃から、新一は月を見るのが好きだった。

「どうや?」
「んー 明るいから、運が良ければイケるかな」

 今日は六月二十三日。
 二十時十二分に月は地球に最も近づき、三十二分に満月になる特別な日だ。

 現在、二十時過ぎ。
 新一と平次の二人は、二階のベッドの上。

 家中の電気を消して夜空を見上げていた。

「雨は上がったんやし、あの高台にでも見に行くんかと思とったけどな」
「冗談。この季節の雨上がりは蚊の餌食だ」
「︙︙そやったな」

 いくら月夜が好きでも、この季節の夜は危険だ。
 人間のみならず虫にまで好かれてしまうやっかいなこの体質に、新一は本当に困り果てているのだ。

 苦笑しつつ、その横顔を見ていた平次。
 その、時。

 ︙︙雲の隙間から月が顔を出した。

 

 

 星が見えないから、雲が厚いのは確かだ。
 けれどもそれは満月の時間だという二十時三十二分過ぎまで、彼らの視界に留まっていた。

 期待はしていたけれど、見られると思ってなかったから奇跡だ。

 それは誰が見ても明らかに大きな月で。
 新一は用意していた双眼鏡を、ずっと覗いていた。

「はー︙︙」
「︙︙隠れてしもたな」
「でも見られて満足。今日は良く眠れそうだ」
「ほー」

 酔ったように高揚した顔。
 平次は、ちょっと面白くない。

 ︙︙それもそのはず。

 二人は、約半年ぶりに逢ったのだ。

 偶然なのか必然なのか︙︙このスーパームーンに当たってしまった。
 新一の興味を、まるごと持って行かれて面白いわけがない。

「服部」
「ん
「来年は八月十一日らしいから、またここで見ようぜ」
「︙︙せやな」
「腹減った。下行ってメシ食おう」

 ベッドを降りると、新一は双眼鏡を机に置く。
 しばらく背を向けたままだったが、扉に向かって歩き出しだので、平次もそれに続いた。

 


 

 何故だろう。
 小さな頃から、新一は月を見るのが好きだった。

 そしていつからか。

 ︙︙新一は、この月を平次と一緒に見たいと思うようになっていた。

 スーパームーン。
 姿を隠しても、確かに今、空に存在する満月。

 

 それは︙︙

 二人の感情を、もうすぐ交差させる。

 

[了]

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