新年を、君とともに

 

 年末年始に一緒にいたことなんてない。
 それは、仕方のないことだ。

 だからどう態度に出したらいいのか解らなかった。

 ︙︙紅白が終わる寸前に、あいつが現れたその時に。

 


 

「何や。リアクションなしかい」
「︙︙いや、だってお前」
「オカンとオトン、温泉行ってもうてん。せやから俺は、こっち来たった」

 服部平次が現れたその時。
 工藤新一は、風呂から上がったばかりだった。

 ︙︙時間も日付が変わる少し前。

「だからってな︙︙」
「せやかて一人で年越しは寂しいやんか。工藤かて、今年はひとりや言うてたろ」
「そりゃ、言ってたけど」

 髪も濡れたまま。
 新一は、バスタオルで拭きながら玄関に立ったままの平次を見下ろしている。

 ︙︙こんな場面でもなければ『見下ろす』なんて機会はない。

「ちゅうことで」
「は
「ほい。年越しそば、一緒に食おうや」

 そう言い、笑顔を向けられた新一。
 平次はコンビニの袋を渡すと、呆けたままの彼の頭上にあるバスタオルを、ごしごしと拭いた。

 ︙︙あっという間に靴を脱ぎ、身長差も元に戻る。

「どうしてお前は」
「ん
「︙︙そう勝手なんだ」
「工藤は言うてくれへんし。せやったら、行動に出るしかないやろ」

 止まる手。
 平次の視線が、自分にあるのを感じる。

 相変わらずの首の角度。
 そんな目線を相手に投げ、睨みつける︙︙

「これがその『行動』か」
「怒っとる工藤は、また格別やし」
「帰れ」
「って言われて帰るかいな。本心でもないのに」

 新一の頬が僅かに上気するのを平次は見逃さない。
 表情は変わらずとも反応する空気を、知っているからだ。

「お。また怒った」
「︙︙本当に俺を苛立たせるのが上手いな、お前は」
「素直に喜べばええやん」
「迷惑だ
「あ。二十四時や」

 その時。
 平次の上着のポケットから、時報のアラームが鳴る。

 携帯電話のものだ。

「︙︙」
「ちゅうことで。新年あけましておめでとさん、工藤」

 その携帯の時刻表示と共に、平次は笑顔を彼に向ける。
 新一は視線を手元の袋に移し、小さく呼吸した。

 ︙︙そして。

「そうだな︙︙明けましておめでとう、服部」

 今年最初の笑顔を、彼に向けた。

 


 

「だけど俺、午後から成田でロスなんだけど」
「へ
「年越しがひとりだとは言ったけど、正月がひとりだとは言ってねえし」
「︙︙何でそれを早よ言わんのや!」

 深夜を過ぎ。
 テレビのカウントダウンライブ中継も終わった頃。

 平次の持ってきた年越しそばを食べている、その時。
 新一は平次に言った。

 午後から、両親の住んでいるロスへ向かう事になっていたからだ。

「ほんならのんびりソバ食うとる場合ちゃうやろ、行くで
「え どこに」
「初詣でや。工藤と、いっぺん行っとかな」
「︙︙俺もう眠いんだけど」
「そんなん飛行機乗ってからいくらでも寝れるやろ。ちゅうか、またしばらく逢えへんのやったら、今晩も寝かせるかい」

 真面目な顔で言われ、新一は返す言葉もない。
 確かに前に逢ったのはまだ秋の頃で、今日を逃せば、今度は早くても来月︙︙

 とすると。

 意地を張っているだけ損か。
 そう、悟る。

「文句のひとつも返ってこん所みると、ええんやな」
「怒るとまたお前を喜ばすだけだし」
「どんな工藤でも俺は好きやで
「知ってる」

 再び変わる空気。
 穏やかに、まっすぐに。

 ︙︙今度は首までも色づいて。

「せやったな」
「着替えてくる。お前それ、片付けといて」

 年末年始に一緒にいたことなんてない。
 だから、知らなかった。

 ︙︙こんなに嬉しいものだったとは。

 新年を。

 他の誰でもない、こいつと迎えると言うことが。

「まいったな︙︙」

 自室へ上がる階段の途中。
 新一は、今までの緊張が解けたのか︙︙

 ︙︙その場に座り込み、顔の火照りが治まるまでしばらく動けなかった。

 

[了]

« »

HOME > 平新シリーズ > 新年を、君とともに